家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫) 本書は日本を代表するマゾヒズム小説。
『奇譚クラブ』1956年12月号~1958年4月号に、第1章『発端』から第27章『狩猟場へ』までが掲載されたが、完結しないまま終了してしまった。これは修正の要望があまりにも多く、執筆意欲を失ったためと、作者本人が角川文庫版のあとがきで語っている。
三島由紀夫、澁澤龍彦、寺山修司、奥野健夫等が大絶賛したおかげで、雑誌連載中から注目を浴びたが、検閲が厳しかったためになかなか単行本化されず、1970年になってやっと、全28章構成の版が都市出版社から刊行された。
その後、1991年に『完結編』(第29~49章)がミリオン出版から、翌年には天野哲夫が全体を再構成した『改訂版』(全49章)が太田出版から刊行された。幻冬舎アウトロー文庫版も『改訂版』。
本書の特徴は、M小説でありながら、設定がSF的であるところ。
婚約者どうしの瀬部麟一郎とクララ・フォン・コトヴィッツは、ドイツでUFOの事故に巻き込まれ、ポーリーン・ジャンセンによって未来へ誘われるが、そこは未来帝国イース(EHS)が支配する世界だった。
イースでは白人が人間として暮らし、黒人が奴隷として白人に仕え、ヤプーと呼ばれる旧日本人が家畜として白人に奉仕している。ちなみに、20世紀に暮らす日本人は、過去に送り込まれたヤプーの末裔。
本書は1000ページ以上のボリュームであるが、時間は30時間余りしか進まない。もともと1週間の出来事を綴って完結する予定だったが、微に入り細に入り記述したため、このような結果になったとのこと。
この間に、主人公の麟一郎は、皮膚強化や完全去勢などの肉体改造を施されたうえ、精神的にも調教され、婚約者だったクララの家畜として生きることを決心する。
本作はM的妄想の極みとも言える一大奇書であることは間違いない。だが、全49章を読み切って満足感を得ることのできる人は、ほとんどいないのではないだろうか。
かく言う私も、読むことは読んだが、かなりの苦痛を伴った。基本がSF小説なので感情移入が難しいし、M的男ではないので肉便器になっても嬉しくない。
とりあえず内容だけ知りたいという方には、石ノ森章太郎の漫画がオススメ。設定が一部変更されているが、ヤプーの世界観はじゅうぶん堪能できる(江川達也の漫画もあるが、こちらは途中で終わっている)。
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