騎乗位で何度も逝かされた祥子は、磯谷作造の胸に紅潮した顔を横たえ、この部屋へ来る前のことを思い出していた。
磯谷本家の当主である作造が、自宅のリビングルームで腕を組んでソファに座っている。
大理石のテーブルを鋏んだ向かいのソファには、苦渋の表情を浮かべた祥子が、膝を揃えて腰掛けている。
ベージュ色の清楚なデザインのワンピースを着た祥子が、正面に向かって深々と頭を下げる。
「お義父様、後生ですから、どうかお考え直しください」
能面のような表情の作造が、腕を組んだまま平然と否定する。
「それはできん相談だ。だいたい、こうなったのは、すべてオマエのせいではないか」
「私のせいと言われても…」
「違うのか? ワシが言ってることは間違っとるか?」
「いえ、けっしてそんなことは…でも…」
眉間に皺を寄せた作造が畳みかける。
「すべてを承知したからココに来たんではないのか?」
かしこまっていた祥子が激しく頭を振る。
「違うんです。思い直していただこうと考えて、お伺いしたんです」
窮した長男の嫁が義母を話題にする。
「で、でも、お義母様が…」
義父の口元が緩む。
「なあんも心配せんでええ。美代はすべて承知しとる」
祥子が口に手を当てて絶句する。
「あれはできた嫁じゃ。オンナがらみのことで、ワシにとやかく言うことはない」
「で、でも…」
「美代だって、孫を抱きたいんじゃ」
「だって、孫なら里奈{りな}がいるじゃないですか」
「確かに里奈は目に入れても痛くないくらい可愛い。しかし、あの子は後々他家に嫁ぐ女じゃ。頭数には入らん」
義娘が堪らず抗議する。
「それなら、里奈に婿をとらせばいいじゃありませんか」
当主があきれたような表情を見せる。
「何度も言っとるじゃろ。磯谷家は男系で500年以上継いで来たんじゃ。ワシの代で切るわけにはいかん。ご先祖様に申し訳がたたん!」
崖っぷちに立たされた祥子が、最後のカードを切って勝負に出る。
「それなら、私は死なせていただきます」
しかし、義父は動揺する素振りすら見せない。それどころか、さらに嫁を追いつめる。
「それは構わんが、里奈はどうするんじゃ? ワシらはもう歳で育てられんから、養護施設にでも入れるしかないぞ。さもなくば外国へ養子に出すか? 日本娘はえらい人気らしいからな」
慌てふためいた若妻が身を乗り出して訴える。
「お義父様、そんなのあんまりです。里奈は可愛い孫娘じゃないですか!」
義父が薄ら笑いを浮かべる。
「オマエは、その愛娘を捨てて、自分勝手に死ぬんじゃろう? だったら文句は言えんのじゃないか? 生みの親として里奈が不憫だと思わんのか?」
感極まった祥子が立ち上がって絶叫する。
「思わないわけがないじゃないですか!」
平静を装った作造がなだめるように諭す。
「そう興奮するな。例えが悪かった。スマン。でもなあ、祥子や。長男の隆嗣も、次男の孝次も、息子をつくることができなんだ。なら、どうするんじゃ? 直系の男子はワシしかおらんじゃないか」
「それはそうですが…」
「だったら、ワシの種を使うしかないじゃないか」
「わかります。それは理解してるんです。里奈だって、孝次さんの子なんですから」
「だったら何も問題ないじゃないか」
「だから、人工授精でってお願いしてるんです。閨を共にするのだけは勘弁してください。私は長男の嫁なんですから」
堪忍袋の緒が切れた作造が、仁王立ちになって嫁を睨みつける。
「つべこべ言うんじゃない! ワシの子を孕んで、跡継ぎを産むんじゃ!」
あまりの剣幕に、祥子が身をすくめる。
「何度言わせればいいんじゃ。隆嗣も孝次も、もう文句は言えん。美代も納得しとるし、桃代だって理解しとる。あとは、オマエの決断だけなんじゃ」
「で、でも、義父の愛人になるなんて、私にはとてもできません」
困惑した当主が目の前で手を振って否定する。
「違う、違う。何を勘違いしておるんじゃ。オマエは事実上の第一夫人になるんじゃ。なにしろ跡継ぎの母親なんだから。美代も、自分は退いて家の切り盛りはすべて祥子に任せると言っておる」
祥子はもう何も言い返せなかった。
「今日のためにキレイなべべを用意してある。寝室でそれに着替えて、離れに来なさい。場所はわかっとるじゃろう?」
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