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秘密ごっこ(27)


 土曜日の昼下がり、太陽が山の中へ潜ろうとしている。
 四方に密生している樹々は赤みを帯び、すっかり秋の様相を呈している。もうすぐ紅葉の見頃を迎えるはずだ。
 山深いこのエリアは源泉掛け流しの温泉が点在することで有名だが、このあたりで人を見かけることはめったにない。山林保護の職員や山菜採集の地元民をたまにみかけるくらいだ。

 3人が山荘の前で立っている。
 雅也が正門の鍵を解除する。
「やっと着いたよ。なかなかいいところだろ。ときどき、ここで原稿を書いたりしてるんだ」
 海輪{みわ}が扉を押し開ける。
「わぁー、お庭が広い。テニスもできそうね。ワンちゃんがいたら喜びそうだわ」
 沙羅{さら}が後に続く。
「ここならノンビリできそうね。今は寒いけど、夏なら最高ね。長期滞在ができそう」

 二階建てのウッドハウスはスウェーデン製で、雅也の父が自身の避暑用に建造したものだ。以前は古民家が建っていたらしい。
 高い土塀に囲まれているため、門を閉めれば外から覗くことはできない。敷地内なら気兼ねなく何でもできる。
 また、山間の一軒家なので周りに気を遣う必要もない。音楽を大音量で流すことも可能だ。ただし、最寄りのコンビニまで車で20分もかかる。

 この3人、実は週末の三連休を利用して新婚旅行に来ている。
 宿泊先は温泉旅館でもよかったのだが、ある目的のため、あえてこの場所が選ばれた。

 幼妻の左手の薬指にはプラチナリングが光っている。カルティエのダムール・ウェディングリングだ。優雅で清楚なデザインがよく似合っている。
 彼女の名前は、大塚海輪{みわ}。
 婚姻届けを提出するときに、咲良から海輪に改名した。ほかほかの新婚さんだ。

 未亡人の薬指にも真新しい指輪が填められている。こちらは4℃のホワイトゴールドリングで、3石のダイヤモンドがあしらわれている。
 彼女の名前は、大塚沙羅。旧名は伊藤美和。
 雅也と養子縁組し、雅也の養女となった。相続対策以外では珍しいケースだ。

 これにより、沙羅は海輪の実母であるにもかかわらず、戸籍上は海輪の義理の娘となり、母娘の関係が逆転してしまった。
 もちろん、母娘が望んだことではなく、雅也が半ば強引に変更を行った結果である。
 日本には古来より名前を交換する習慣があった。記紀神話に登場するヤマトタケルが良い例だ。しかし、21世紀の現代で互いの名前を交換する人は皆無だ。

 雅也が車の荷台から出した荷物を運び入れ、リビングルームの暖炉に薪をくべて家全体を暖める。
 1階にはリビングルームのほかに、ダイニングキッチン、バスルーム、トイレ、そしてゲストルームがある。
 咲良と海輪は荷物を整理して夕食の支度にとりかかる。
 沙羅がキッチンに入って準備を始める。
「咲良ちゃん…じゃない、海輪ちゃん、こっちに来て手伝ってちょうだい」
 沙羅はまだこの呼び方に慣れていない。ついつい「咲良」と呼んでしまう。

 3人とも初夜の晩餐を満喫することができた。気の置けない家族との楽しい会話は何物にも替えがたい。
 ふだんも3人で暮らしているのだが、互いに多忙を極めているため、ゆっくりと夕食を共にする機会は少ない。新婦にはそれが最大の不満だった。
 新婚カップルと義母は、ロゼのシャンパンで乾杯し、前菜と主菜を平らげたあと、デコレーションケーキを分け合って食べた。
 本来なら大勢の関係者を招いてお披露目するところなのだが、周囲に結婚を隠しているため、今回は身内だけでの祝杯となった。
 海輪の学校には「母が再婚した」、沙羅の実家には「大塚氏と再婚した」と嘘をついた。雅也の家族は結婚のことも養子縁組のこともまだ知らない。

 食後、リビングのソファーで寛いでいた夫がおもむろに立ち上がり、キッチンで仲良く片付け物をしている母娘に声を掛けた。
「海輪、沙羅、“儀式”を始めるぞ。着替えて2階の広間に来なさい!」

 2階には8畳の書斎と12畳の寝室と24畳の大広間があり、大広間は多目的ユースで使用されている。ベランダに出れば、山々の雄大な景色を楽しむことができる。
 西側の壁は、収納棚になっていて、書籍、CD、DVD、BR、ボードゲーム、プラモデル、フィギュアなどが整然と並べられている。
 東側の壁には、さまざまな絵画が掛けられており、その下には木製の作業台が並んでいる。
 南側の窓際には、キングサイズのベッドが鎮座している。
 クローゼットの中には布団がたくさん仕舞われていて、板張りの床に敷き詰めれば1ダースの人が就寝できる。実際、知人の子供たちがここに寝泊まりしたこともある。

 “儀式”の準備を終えた雅也がベッドの端に腰掛けて待っていると、しばらくして、沙羅と海輪の母娘がおずおずと怯えるように入って来た。
 ふたりとも紅百合女学院の制服姿だ。雅也も高校時代の学ランを着ている。
 新夫が新妻と義娘に微笑みかける。
「さぁ、ベッドに上がって。“儀式”を始めるよ」


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豪円寺 琢磨
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