フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (上) (ハヤカワ文庫NV) 《フィフティ・シェイズ》3部作の第1部。シリーズ合計で1億部の大ベストセラー。原題は『Fifty Shades of Grey』
はじめはオンライン小説として発表され、2011年にオーストラリアで書籍化。その後、米国のランダムハウスが版権を買い取り、2012年に世界発売された。日本でも早川書房から同年に邦訳版が刊行された。
作者のE L ジェイムズは、英国ロンドン在住の元テレビ局員で、1953年ロンドン生まれ。夫と2人の息子がいる。本書が処女作。
主人公はアナスタシア・スティール(通称アナ)で、ワシントン州立大学バンクーバー校で英文学を専攻する女子大生。学生新聞の取材を通して、大金持ちで美男のクリスチャン・グレイと出会い恋に落ちる。
クリスチャンの自宅に招かれたアナは、秘密保持契約書にサインさせられ拷問具が並ぶプレイルームに案内される。
BDSMでしか女性を愛せないクリスチャンだったが、アナが処女であることを知って衝撃を受け、初回はバニラセックス(普通の性行為)で歓びを分かち合う。
支配者(ドミナント)と従属者(サブミッシブ)の関係を迫るクリスチャンに対し、アナは戸惑い、悩む。過去に15人いたという従属者の影に怯え、クリスチャンの過去を探る。
この作品はベリーライトな性愛小説だと思う。基本は世の女性が大好きなロマンス小説で、そこにSMというスパイスが振りかけられている。そうでなければ、1億部は売れないだろう。
BDSMと聞くと、おどろおどろしい印象を受けるが、アナはクリスチャンにお尻をベルトで6回叩かれただけで別れてしまう。ファックシーンも随所に見られるが、その描写はとても淡泊(たとえば、アナは毎回、挿入されるとすぐに達してしまう)で、行為自体よりもアナの心情が詳細に描かれている。
本書はもともと、ステファニー・メイヤーの『トワイライト』シリーズのファン・フィクションとして書かれた作品なので、対象とする読者はティーンエイジの少女たち。本書の宣伝でよく使われる“衝撃的”は、スローセックスを当然のことと考える女性にとってのものであって、アブノーマルを許容できる女性は範疇の外にある。
だから、本書を本格的な官能小説として読むとガッカリさせられてしまう。しかし、ラブロマンス小説としてなら楽しく読み進めることができると思う。
クリスチャンがフィフティ・シェイズ(50の歪み)を持つに至った過去とは? 15人のサブミッシブとの関係は? BDSMはどこまでエスカレートするの? 二人の恋の行方は? ハッピーエンドを迎えるの? etc。
なお、クリスチャンがアナにサインさせようとする契約書(文庫本P262-264)は以下のとおりだ。官能小説によくある奴隷契約書とはかなり違うが、この作品の本質はこの契約書が語っていると思う。
服従
従属者{サブミッシブ}は、支配者{ドミナント}から与えられた指示に、躊躇したり迷ったりせず、即座に従うこと。別に定めるハードリミットを除き、ドミナントが適切と判断したうえで快楽のために行なう性行為に応じること。その際は、積極的に、またためらわずに受け入れること。
睡眠
サブミッシブは、ドミナントと行動をともにしない日は最低6時間睡眠をとること。
衣服
契約期間中、サブミッシブはドミナントが許可した服のみを使用すること…
エクササイズ
ドミナントは週3回、1時間ずつのパーソナルトレーニングの費用を負担する…
衛生/美容
サブミッシブは、つねに清潔を保ち、シェーバー/ワックスを使用した無駄毛処理を怠らないこと…
安全
サブミッシブは、過量の飲酒、喫煙、医療品を除く薬物の摂取、不必要な危険行為を避けること。
行動
サブミッシブは、ドミナント以外の人物と性的関係を持たないこと。常識的な行動を心がけ、自身のふるまいのすべてがドミナントに影響を及ぼすことを意識すること。ドミナント不在時に犯した悪事、不正行為、不作法の責任はサブミッシブにある。
右に掲げるルールに違反した場合、即座に懲罰が与えられる。懲罰の種類はドミナントが決定する。
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